学習・資料

STUDY

火山の多い国で
くらすということは..

日本を指して「火山国」とか「火山列島」と呼ぶことがある。
みんなもどこかで聞いたり読んだりしたことがあるかも知れないね。
ということは、この国ではくらしのどこかにいつも火山が顔をのぞかせているということなんだ。

たとえば、しょっちゅう感じる大小の地震。
これは火山国にくらす私たちにとっては宿命のようなものだ。
また絵に描かれたり会社の名前でおなじみの“富士”。
活動こそ長い間お休みしているけれど、日本のシンボルでもあるこの山は立派な火山だ。

まだある。ここ雲仙もそうだけれど、旅行好きな日本人がしばしば訪れる温泉地、これも火山と縁が深い。
そういうわけで、昔から日本人は時々大暴れする火山に大きな恐れを抱きながら、それでも上手につきあおうとしてきた。
その姿勢には今でも学ぶことができる。

火山と上手につきあう
ということは..

まず火山をよく知るということ。
そして火山がもたらす災害をなるべく小さく、反対に火山の恵みをできるだけ利用することだ。
それには過去のできごとを知ること、それから新しい科学の成果を生かすことが必要になる。

さらに、それぞれの火山がある地域の研究を加えれば、火山とはとても上手につきあうことができるよね。
そしてこうした学び方はやがて、火山だけでなく、私たちのまわりにあるさまざまな自然環境を、守りながらくらしに生かす方法を、身につけていくことにつながっていくと思う。

火山とは?

そのおそろしさ、
そのおもしろさの正体

地球には私たちのくらしや生命に害を与えそうな火山がおよそ1500あるんだ。そして5億人以上の人々が、火山がもたらす災害を受ける範囲に住んでいる。

「どうして引っ越さないの?」と君たちは首をかしげるかも知れない。それはとてもいい疑問だ。答えが知りたかったらこの建物(雲仙岳災害記念館)の外に出てみよう。 そしてあたりを見回してみよう。何が私たちの目をとらえるだろうか。

まず荒々しい山肌を見せる平成新山を中心とした雲仙火山があるね。でも視線をふもとの方に向けると、そこには森があり、田畑があり、それらの緑に囲まれた家々がある。さらに有明海が大きくひろがっている。

美しいだろう? 豊かだろう? こんなに美しく豊かな風土から、離れることはできない、とここに暮らす人々の多くは言う。これが答えなんだ。火山がもたらす災害は恐ろしい。けれどもその一方で火山は、こうした贈り物ももたらしてくれる。だから人々は、火山とともにくらすことにこだわり続けるんだ。

  • 球の内部の構造図
”うちに秘めた炎”、
それは地球が生きている証拠

私たちがいま立っているこの大地の下、3000kmにあるのが地球の中心核。それは6600度の熱いかたまり。よく地球のことを「水の惑星」とか「緑の惑星」と呼ぶけれど、中心では地球は「熱い惑星」であり「燃える惑星」なんだ。もし中心部が冷えてしまったら地球はどうなるだろう? それは地球が多くの生命を育てる力を失ったということになる。つまりそのとき地球は「死の惑星」となってしまうんだ。

  • 地球の内部の構造図
火山が”いのちの炎”を地表に運ぶ
=火山の恵み

中心核の外側の層がマントル。マントルは地球の表面を覆う地殻のすぐ下から深さ約2900kmまでの間を占めている。マントルはふつう、非常に高い圧力のために高温の固体の状態にある。圧力や温度が変化するとマントルは地表に向かって上昇を始め、固体からどろどろの状態になる。これがマグマ。マグマが地表に噴き出す現象を噴火、噴火から生まれた地形を火山と呼ぶ。火山の活動は山をつくりあげ、新たな陸地を生みだす。それだけではない。マグマはあらゆる生命に欠かせないミネラルを、地球の内部から地表に運ぶ。私たち人間の身体にある原子の多くはもともと地球の内部にあったもの。それを地表まで運んだのも火山の活動なんだ。日本は国土の15%を火山 から噴き出したものによって覆われている。火山国ということがここからも分かるよね。

  • 火山の内部のマグマだまり

    火山はエスカレーター

    マグマによって地球内部から新しい物質が地表に運ばれる。つまり「緑の惑星」の土台は火山がつくった。また噴火は大量の水や二酸炭素のような物質を地球内部から運んできた。地球誕生後最初の海はこれによってつくられ、最初の生命もここから発生した。つまり「水の惑星」も火山があってこそなんだね。

  • 鉱物資源と火山

    金・銀・鉛・亜鉛・銅など人類にとって役に立つ鉱物は、ふつう岩石にはごく少ししか含まれていない。ところがそれらの鉱物は、「鉱床」として一ケ所に集中していることがある。これも火山の恵みだ。マグマが地表に近づくとその熱によって地下水が沸騰し、鉱物と反応してそれらを水の中に溶かしこみ、溶かしこんだ鉱物を一カ所に集めて「鉱床」をつくる。おかげで人類はそれらを鉱物資源として効率良く利用することができるんだ。

  • '91(平成3年)09.19

    火山灰地は役に立たない土地なの?

    噴火はたくさんの火山灰を広い地域にまき散らす。火山灰がまだ新しい場合は、確かに農業にはむいていない。けれども風化が進み、地中で分解された有機物が十分混じり土壌化すれば、火山灰地は農業に最適の土地になるんだ。

  • 湯江川流域

    日本人のこころのふるさとには火山がある。

    日本の国立公園27の半数以上が、カルデラ湖など火山活動が生んだ景色を大きな理由として指定されている。火山は地形としては新しく、湖水にめぐまれ景色が変化に富み、さらに普通の山地に比べて起伏がゆるやかだ。人をひきつける温泉も火山活動のおかげ。他にも志賀高原、蔵王、ニセコなどのスキー場、伊豆川奈、那須などのゴルフ場も火山の斜面を利用したものなんだ。また火山がつくるスケールの大きな山すそには、雲仙をはじめ軽井沢、御殿場、箱根のように古くから避暑地、保養地として知られたところが多いよね。

火山のかたちはなぜ違う?

火山のかたち(サイズ、スタイル、内部の構造)は、マグマの粘り気の度合い、噴き出すマグマの量、噴火の継続時間、火口のかたち(穴のようなかたちか、裂け目か)、噴火が起こった場所(地上か海中か)、などさまざまな条件によって決まる。

  • マール

    マグマと地下水が触れたために起る爆発(マグマ水蒸気爆発)によって、地表にすり鉢状の穴があき、吹き飛ばされた物質が周囲に積もったもの。噴火がおさまると地下水が戻って火口湖となる。秋田県男鹿半島の一の目潟、二の目潟、三の目潟や蔵王の湯釜火口が代表例。

  • 火砕丘(噴石丘)

    マールが低い噴出物で囲まれた凹みであるのに対し、弱い爆発が続いて、火口の周囲に噴き出したものが高く積もってできた円錐形の丘をこのように呼ぶんだ。ふつう200~300mの高さで頂上には火口がある。阿蘇山の米塚が代表例。

  • 溶岩円頂丘(溶岩ドーム)

    粘り気のある溶岩が噴き出した場所の上に高く盛り上がってできたドーム状の地形。平成新山、眉山、昭和新山が代表例。

  • 成層火山

    くりかえし噴火した溶岩や火山灰、火砕流などが重なってできた円錐形の火山。もっとも多いタイプ。富士山が代表例。

  • 盾状火山

    粘り気の少ない溶岩が繰り返し流れ出てできる10度以下のなだらかな傾斜をもった平たい火山。伊豆大島が代表例。

  • 溶岩台地

    粘り気の少ない溶岩が大量に続けて何度も噴き出してできるテーブル状の広い台地。ときには全体の厚さが数100~1000m、広さが数十万㎢におよぶこともある。デカン高原(インド)がそうだ。

  • 火砕流台地

    大量の軽石と火山灰から成る火砕流が繰り返し噴出されてできる台地。シラス台地(鹿児島県)がそうだ。

  • カルデラ

    火山にできた直径2km以上の凹型の地形。火山が大量のマグマを噴出したあと、地表の陥没、火山の崩壊、侵食作用などによってできる。もともとの語源は鍋。鍋の縁にあたる部分を外輪山、鍋の中にできた火山を中央火口丘という。浅間山(群馬県)がそうだ。我が国でもっとも大きなカルデラは阿蘇カルデラだ。

  • 日本列島とプレート
火山列島はなぜできる?

日本列島は別名火山列島と呼ばれるほど火山が多い。
日本列島に限らず、世界中のあちこちに火山が連なっている地帯がある。このことからわかるのは、火山が生まれやすい地帯とそうではない地帯が地球上にはあるということだ。

  • プレートの構造

なぜこんな違いが起るのか、それを説明してくれるのがプレートテクトニクスという理論なんだ。
地球の表面を覆っている地殻はひとつながりではなく、プレートと呼ぶ20ほどに分かれた厚さ60~100kmの堅い岩板からできている。火山はこのプレートの境目にそって生まれる。

実はプレートは一年に数cmから20cmほどの速度で別々の方向に動いている。だからプレートの境目では、プレートが折り重なったり、引き離されたりしている。つまりここでは地殻がとても不安定な状態となっているんだね。マグマはそこの地下深くで発生し、上昇して地表に噴き出すので、火山は連なることが多くなるんだ。

火山がもたらす災害

  • 平成新山
地球が生きている証拠で
あるのだけれど..

生命を育てる地球のパワーは、いつも優しいとは限らない。そのパワーが大きければ大きいほど、人間がコントロールできないような現象を起こすことがある。人間の生命、生活、財産、そして自然環境などにダメージを与えるそうした現象を見ることにしよう。

噴火のタイプ

火山の火口からマグマ、ガス、岩塊などが噴き出す現象が噴火だ。マグマの種類、マグマの量、ガスの性質などが違うと噴火のスタイルも違ってくる。まずマグマを含むかどうかで噴火を分けてみよう。

  • 普賢岳

    マグマ噴火

    火口からマグマを噴き出す噴火のこと。マグマの粘り気によって溶岩(地表に噴き出したマグマを溶岩と呼ぶ)の流れ方、噴煙の上り方、噴火によって放出される火山灰や岩石の性質も違ってくる。また噴火後にできる火山のかたちにも違いが出る。

  • 水蒸気爆発

    地下水がマグマによって熱せられると水蒸気となる。出口のない地下でさらに熱が加わると、高まった水蒸気の圧力で爆発を起こす。これが水蒸気爆発。

  • マグマ水蒸気爆発

    マグマがいきなり地下水や海水に触れ、水蒸気が激しく発生して起る噴火。マグマ噴火と水蒸気爆発の両方の特長を持っている。

  • '92(平成4年)02.14
火山災害のタイプ

火山による災害には、噴火によって噴き出されるものがもたらす災害と、噴火そのものが原因となって発生する災害がある。

  • 火砕流が発生した普賢岳('92 08.07)

    火砕流

    高温の溶岩の破片や軽石、火山灰が、火山ガスや大気とともに火山の斜面を高速で流れ下る現象。

  • 土石流の被害('92 08.08)

    火山泥流・土石流

    火山の斜面には、火山灰、火山れき、火山岩塊といった火口から噴き出したものが積み重なっている。これらが大雨によって周囲の樹木などを巻き込んで流れ下る現象。

  • 溶岩流

    火口から出た溶岩が地形に沿って流れ下る現象。ハワイでみられる溶岩流はよく知られているが、雲仙岳では、1663年の噴火、1792年の噴火で普賢岳山麓に溶岩流が流れた記録がある。

  • 普賢岳('91 08.27)

    空振

    火山爆発によって、空気が振動する現象。周辺にある建物の窓ガラスを割る被害が出ることもある。

  • 火山弾(観光復興記念館蔵)

    噴石・火山弾

    ふつう火口には以前噴火したときの噴出物が堆積している。新たな噴火が起こるとこの堆積物が、水蒸気やマグマとともに吹き飛ばされる。これらが噴石。中には空中に飛ばされたマグマの表面が冷やされて固まり、砲弾のようなかたちになって地上に落下することがある。これが火山弾。どちらも非常に危険。

  • 火山灰が降る島原市内('93.03.09)

    火山灰

    火口からの噴出物のうち、直径が2mm以下のものが火山灰。地上に降り積もるとさまざまな災害を引き起こす。植物を枯らし、雨などで水を吸うと重くなって建物をつぶしたりもする。電線に付いた火山灰は停電の原因となるし、吸い込むと自動車や飛行機のエンジンをだめにし、人間の健康もそこなう。

  • 現在の眉山 1792年の「島原大変前図」(島原図書館所蔵)

    岩なだれ(山体崩壊)

    大規模な噴火や直下型の地震が起こると、火山自身が崩壊してしまうことがある。これを山体崩壊と呼び、火砕流と並んでもっとも危険な火山の災害とされている。1792年の雲仙眉山や1888年の磐梯山の災害が代表格。

  • 島原大変(1792年)の雲仙眉山の
    山体崩壊でおきた津波

    津波

    山体崩壊によって発生した大量の土砂・岩石が一気に海に流れ込むと、海面に大きな凹凸が生まれる。これを火山性の津波と呼ぶ。眉山が崩壊したときにも起り被害をより大きくした。

  • 平成噴火の兆しの火山ガスをだす普賢岳('90 11.17)

    火山ガス

    火口や噴気口から出る火山ガスのほとんどは水蒸気だが、炭酸ガス、硫化水素、亜硫酸ガスなどの有毒な成分を含むこともあり、人や動物の命を奪うことがある。

噴火の予知と防災

「数百年に一度」にどう備える?

「災害は忘れたころにやってくる」ということわざがある。
そこには、いきなり襲ってくる災害への恐れと、ふだんのくらしのリズムとは異なる、大自然の長い時間をかけた大きな変化への驚きがこめられている。
しかし災害を前にしてただ感動しているわけにはいかない。
かけがえのない命や財産を守るため災害をあらかじめ予測し、しっかり対策を立てて実行することが大切だ。
火山と上手につきあっていくためにも、噴火の予知と防災の役割はとても重い。

  • 静寂をとりもどした平成新山
全ては観測から始まる

風邪を引く前に、身体がだるくなったり、鼻水やくしゃみがでたりするね。それは身体の調子がおかしくなっていて、やがて本格的な病気になることを伝えるシグナルなんだ。噴火の前にも大地はさまざまなシグナルを出している。それらを見逃さないように、火山のまわりではさまざまな機器が大地の変化を観測している。そこから得られたデータは、噴火を予知し、万一への備えを用意するための基本的な情報となる。

振動を観測する

噴火のきざしはまず地面の下で起る。マグマが火口に向かって上昇し始めると、色々な種類の振動が観測される。そこで地震観測は噴火予知の基本とされている。

  • 写真提供:九大地震火山観測研究センター

    地震

    噴火が迫ると噴火地点の近くでは、震源の浅い地震が集中的に起ることが多い。しかしその回数や地震が続く期間は、これから起る噴火の大きさや種類と明らかな関係があるとまではいえない。けれども地震の規模は、噴火が破壊する範囲にほぼ対応している。

  • 火山性微動

    地震計がとらえるごくわずかな揺れは、噴火の規模や移り変わりを判断するうえで非常に良い目安となる。また地中のマグマ、ガス、水などの移動を示す材料ともなる。

地表を観測する

噴火は地下のマグマが地球の表面をめざして上昇する動きとも考えられる。その動きは地球の表面を覆う地殻に影響をあたえるはずだ。それは精密な計測機器でなければ分からないほどのわずかなものである場合もある。

  • 火山性微動

    噴火の前後には、火山一帯のマグマの動きを反映して地殻が隆起したり反対に沈降したりすることがある。これは一定の地点の高さの観測を続けることでわかる。また地殻が伸びたり縮んだりすることも知られている。これは2点間の距離を続けて測ることでわかる。

  • 重力

    マグマが火山に向かって移動すると、その地点の重力がわずかに変化するとされている。そこで火山の周辺の精密な重力観測が、噴火予知を目的として行なわれている。

電磁気を観測する

火山を形作っている物質の中には、磁気を帯びていたり電気的な性質を持つ鉱物がある。たとえば地下の温度が上がると周囲の磁気を帯びた物質は磁性を失う。またマグマが入り込むと、地下の電流は流れやすくなる。火山活動にともなうこうした変化を観測することで、電磁気という大地からのシグナルを活用することができる。

ガスと熱を観測する

火口から上がる雲煙の勢い、量、色、あるいは火口のまわりの植物の様子、温泉や井戸水の変化は、古くから噴火の前兆を示す現象として知られてきた。今では火山ガスを採取してそこに含まれる成分を分析したり、地表や地下の温度変化を測定することで、火山活動をとらえようとしている。

雲仙岳・平成の
大噴火の場合

  • 大崎鼻より平成新山を望む

では雲仙岳の平成の大噴火の場合はどのような変化が観測されていたのだろうか。どのような対策がとられたのだろうか。そして今はどのような観測体制がとられているのだろうか。

平成の大噴火の教訓

今回の大噴火は大きな災害をもたらした一方で、観測体制がもたらした予測によって、さまざまな対策がとられ多くの人命が守られた。

  • 太田一也教授

    地震

    九州大学の太田一也博士が1972年に発表したマグマ供給システムの考え方。太田博士は雲仙岳周辺の温泉の泉質分布や地質構造、地震現象などを総合的に研究し「雲仙火山のマグマ溜まり橘湾下にある」という仮説を立てた。この仮説によると今回の噴火の前兆現象は次のように見ることができる。

  • 写真提供:九大地震火山観測研究センター

    震源の移動

    噴火のほぼ1年前の1989年11月、橘湾で起った群発地震は次第に島原半島西部でも起り始めた。ここは太田モデルによると、マグマの上昇ルートにあたる。つまり橘湾下のマグマ溜まりから、マグマが上昇ルートに移動してきたことになる。しかしこの時には噴火は予測されなかった。それはこれまでも、島原半島西部ではしばしば地震が起きていたからだ。

  • 写真提供:九大地震火山観測研究センター

    火山性微動

    1990年7月4日、山頂から北北東3.5kmの位置に置かれた地震計が火山性微動と考えられる波形をとらえた。三日後、今度は普賢岳周辺のごく浅い地点でマグニチュード3.9の地震が発生。その後も山頂直下付近では地震活動が続いた。地震の波形を詳しく分析した結果わかったのは、普賢岳直下近くを通った波はいちじるしく減衰することだった。このデータによってマグマが上昇してきていることがわかり、噴火の可能性は次第に大きくなってきた、と思われるようになった。

  • 噴煙を上げる普賢岳('90 11.17)

    最初の小噴火

    1990年11月17日の早朝、1663年と1792年の噴火と同じ九十九島火口と地獄跡火口で小規模な水蒸気爆発が発生。雲仙岳測候所は9時10分「臨時火山情報第1号」を発表した。観測体制はこの日を境に格段に強化された。

  • 新たな火口('91 02.12 写真提供:太田一也教授)

    新たな噴火口の誕生

    一旦活動は収まったが翌1991年1月、火山性微動が復活、2月に入るとまったく新しい火口(屏風岩火口)で噴火が起こった。続いて地獄跡火口の噴火も再開した。この噴火はマグマ水蒸気爆発と見られ、マグマが次第に浅いところまで上昇していることを示すと考えられた。4月15日には赤松谷上流で初の土石流が確認された。

  • '91(平成3年)05.15 '91(平成3年)05.15

    続く異変

    5月になるとマグマ水蒸気爆発に変わって、火口付近のごく浅い地点を震源とする小さな地震がひんぱんに発生するようになった。この地震活動の震源は次第に浅くなる傾向があった。また光波測量のデータは普賢岳が1日あたり10cmの速度で膨張していることを告げていた。また5月15日には水無川上流の住民に対し島原市は、土石流に対する避難勧告を初めて行なった。

  • 緊急コメント

    こうした状況を踏まえ、5月17日、下鶴火山噴火予知連絡会会長は次のようなコメントを発表し警戒を呼びかけた。「…5月13日ごろからは、これまで観測されていなかった活動火口直下のきわめて浅い地震と火山性微動が頻発するようになってきた。さらに地殻変動や地磁気の変化なども観測されている。これらの現象は火山活動の活発化を示しており(マグマが浅いところまで上昇していると推定される)警戒が必要であり、今後も厳重な監視を続ける」

  • ('91 05.21 撮影 写真提供:太田一也教授) 火砕流('91(平成3年)05.24)

    溶岩ドームの出現と火砕流の発生

    緊急コメントはわずか三日後に現実のものとなった。1991年5月20日、地獄跡火口に溶岩ドームが出現した。日々体積を増し、姿を変える溶岩ドームは、5月24日には火口から溢れ部分的に崩落し、最初の火砕流として水無川源頭部を流れ下った。

  • '91(平成3年)05.25

    新たな噴火口の誕生

    火砕流の到達距離は次第に延びて人家に迫ってきた。5月26日、治山ダム作業員が火災流で火傷を負った。島原市は、火砕流被害の恐れがある地域の住民911世帯・3530人に対する避難勧告を行なった。雲仙岳測候所は火山活動情報(現在は緊急火山情報)を発表した。これは人的被害が予想される場合に出されるもので、いわば最高ランクの警報。同じ日下鶴火山噴火予知連絡会会長は、太田モデルの提唱者である太田博士とともに記者会見し、非常に危険な状況なので「これまでのように何かあったら避難するという態勢では十分ではない」と語った。

  • '91(平成3年)06.03 '91(平成3年)06.03

    大惨事

    6月3日午後4時8分、これまでで最大の火砕流が発生した。火砕流の先端は火口から約4.3kmの北上木場地区に達した。この地区には避難勧告が出されていたためほとんどの住民は避難していたが、監視活動を行なっていた消防団員や取材活動を行なっていた記者など、43人が犠牲となった。6月8日の火砕流はさらに延びて5.5km地点まで達したが、前日までに警戒区域に指定されていたため2~300人が救われた。

  • '91(平成3年)06.03

    大惨事からの教訓

    この悲劇は火山災害に対処するための貴重な教訓を残した。危険を知らせる情報は、新聞やテレビでもきちんと報道されていたのに、なぜこのようなことが起こってしまったのだろうか。それは大規模な火砕流に関する知識が専門家も含めて乏しかったこともあるだろうが、最大の原因は報道陣の過熱取材にあった。島原市災害対策本部は報道陣に対して5月29日と31日の二度にわたって退去を要請した。消防団は29日深夜にいったん退去したが、一部の報道機関によって避難した住民の家の電源や電話が無断で使用されたため、6月2日にふたたび上木場に戻っていたのだった。この惨事は以後の火山災害に生かされることになった。実際、この年の9月、そして1993年の6月に発生した大規模な火砕流では、人的災害を減らすうえで、こうした教訓が生かされた。

雲仙岳を見つめる先端科学の目

噴火を予知するには、地道に観測を続けることが基本だ。そのようにして集められた情報を分析し、噴火の前兆現象を見出していく。情報収集にも分析にも、新しい技術や理論が取り入れられている。雲仙岳ではどうなっているのだろうか?

  • 地震計

    振動を観測する

    現在(平成8年4月時点)35台の地震計が雲仙岳の周囲に配置され、マグマの活動や火砕流の発生を監視している。

  • 電磁気を観測する

    火口近くの10地点に磁力計を設置して、マグマの動きを磁力の変化によってとらえている。

  • 第10溶岩ローブの温度分布
    写真提供:九州大学地震火山観測研究センター

    溶岩ドームを観測する

    航空測量によって得られた新旧のデータを比較し、堆積物の容積の増減や山体の変化をチェックし、またやはり上空からサーマルカメラ(熱映像増置)で火口付近の温度変化を観測している。

  • GPS観測

    地殻変動を観測する

    山体の変形、膨張、収縮などをとらえるために、傾斜計や水準測量に加え、光を用いて2点間の距離を測定する光波測量や、GPS(衛星からの電波を受信して観測点の位置を決める方法、カーナビなどと同じ原理)による観測を行なっている。

防災監視システム

火砕流や 土石流などの災害にいちはやく対処するために、監視機器によって収集した情報を行政機関や住民に配信する防災監視システムが24時間目を光らせている。なお、噴火中は自衛隊が目視のほか、レーダーや暗視カメラ、大学の地震計を用いて24時間体制で監視し、防災機関に情報を提供した。また、事後にはヘリコプターを飛ばし被害状況の把握につとめた。

  • 監視カメラ

    監視カメラ

    赤外線カメラ、遠赤外線カメラ、スターライトスコープ(高感度白黒カメラ)、リモコン操作が可能な高感度カラーカメラを合わせて23台、水無川流域などに置いている。

  • 水位・流速計

    川の水量や流れの速さの変化を観測して土石流の発生を予測するために、水位計・流速計によるチェックをしている。

  • 雨量計・小型レーダ雨量計

    土石流は降雨によって発生するので、23台の雨量計と1台の小型レーダ雨量計で雨を観測している。小型レーダ雨量計は降ってくる雨に電波を当て、反射してきた電波の強さから雨の振り方を観測するもので、雨の強さ、雨域の拡がりや動きを連続的にとらえることができる。

  • 衛星通信移動車

    土石流が発生すると現場の監視カメラでとらえた映像を衛星通信回線で送る。

  • 防災専用チャンネル

    1999年11月から国土交通省雲仙復興事務所のレーダ雨量計や監視カメラがとらえた情報を地域の住民に地元のケーブルテレビ「はっと・ほっとチャンネル24」を通じて提供している。

噴火災害からの復興

「がまだす計画」って何?

「がまだす」は島原地方の方言で「がんばる」という意味。
国、県、市や町、それに民間が一体となって島原半島の火山災害からの復興をめざしました。
それが「がまだす計画」なんだ。

「がまだす計画」重点
27大プロジェクト

「前よりもっとすてきな町に! 前よりもっと豊かな町に! 水清く、緑あふれ、人集いにぎわう、島原半島」という目標のもと、さまざまなプロジェクトが1997年からスタートした。

  • われん川整備

    よみがえる湧水=われん川整備

    島原市は至るところで地下水が湧きだしていて、その湧水を源とする澄んだせせらぎが、生活用水として、また快適な環境やふるさとのシンボルとして、人々のくらしに欠かせない役割を果していた。安中地区を流れるわれん川もそんな清流の一つだった。安中地区は土石流によって大きな痛手を受けたが、その清流を中心に地域の復興をめざそうというのがわれん川整備プロジェクトなんだ。

  • 島原深江道路

    島原深江道路

    激しい火山活動によって島原半島の道路も大きな被害を受けた。また何度も何度も行なわれた交通規制によって、地域の人々は道路の大切さを思い知らされた。そこで火山災害に強い道路網を整備し、地域の復興をサポートしようと、島原深江道路、島原中央道路、そして地域高規格道路として島原道路の建設・整備がなされた。

  • 水無川

    砂防計画

    噴火がおさまっても火口から噴き出した堆積物は、しばしば土石流を起こした。こうした被害を食い止めるため、水無川や中尾川では砂防堰堤(ダム)や、導流堤・導流工が建設された。

  • 大野木場砂防みらい館

    地域からの情報発信

    被害から立ち直ろうとする島原半島のさまざまな試みを全国の人々に知ってもらい、理解を深めてもらうために、防災情報を伝える「はっと・ほっとチャンネル24」とホームページ、火山災害のようすを展示する「大野木場砂防みらい館」「雲仙岳災害記念館」など、さまざまな方法で情報の発信が行なわれた。

  • 中尾川 植樹祭

    新しい島原をアピールするさまざまなイベント

    情報発信のひとつとして、地元が主催するコンサートやフェスティバルなど、さまざまなイベントが開かれ、全国に向けて「復興する島原」を伝えている。

くらしの中の火山

「普賢さん」と雲仙・島原の人々

昔から噴火を繰り返し、時には大きな被害を与えてきた雲仙普賢岳。
それにもかかわらず地元の人々はこの山を「普賢さん」と呼ぶ。
それは火山活動を恐れる気持ちにもまして、普段の美しい姿や普賢岳を中心とした豊かな自然、さらには温泉や湧水などの恵みに、人々が感謝と親しみの気持ちを抱いているからだ。

  • 火の山に人々は神の力を感じた - 信仰の対象としての普賢岳

    平成の大噴火で失われてしまったが、普賢岳山頂近くには普賢神社があり、人々の信仰を集めていた。神社には修業のための篭り堂などもあって、この神社が山そのものをご神体としていたことがうかがわれる。古い記録によるとこの神社が建てられたのは1737(元文2)年のことで、それ以来地元の人々は、火山活動が活発になると山が平安であるようにという祈りを捧げてきたんだ。

  • 梨狩り偕楽園

    逆境の中でのがんばり - 島原半島の農業・畜産業

    意外に思う人がいるかも知れないが、長崎県は日本有数の農業県なんだ。中でも平成の大噴火で被害を受けた地域は、畑作や畜産を中心とする農業地帯でもあった。災害のあとこの地域では、土地を整備し、安全対策をほどこした新たな農業が生まれてきている。

  • 雲仙という地名は「温泉」が語源といわれている。

    観光地としての島原半島を語る場合、やはり温泉はまっさきにあげなくてはならないだろう。ただ島原半島の魅力は温泉だけではない。 火山の荒々しいながめ、山麓の豊かな緑、変化に富んだ海岸線、そして長い歴史を物語る史跡や、清流の流れる街並みなどは、昔から多くの人をひきつけてきたんだ。文明開化の時代、長崎に住んだ外国人たちもしばしばこの地を訪れ、すばらしいリゾート地だと島原半島をたたえている。 雲仙が日本最初の国立公園に指定され、また島原半島が日本で初めて世界ユネスコジオパークに認定されたのも、こうした背景があったからだ。

雲仙岳の自然

素晴らしいフィールドにようこそ!

雲仙は島原半島の屋根だ。
島原半島は周囲を海に囲まれた内陸型気候だが、雲仙はその中にあって山地型気候となっている。
雲仙岳は一つの山ではなく、普賢岳、妙見岳、九千部岳、絹笠山など10ほどの火山が集まってできている。
そのため、高地の自然と合わせて火山地帯の特色もあわせて見ることができる。
また雲仙一帯は標高差が大きく、標高に応じたそれぞれの樹林があり、狭い面積の割には変化に富んだ動植物が見られる。
また昔から地元の人々によって自然が守られてきたため、観察を行なうには最適のフィールドなんだ。

雲仙岳の魅力について 
【雲仙岳百景(九州地方環境事務所)】

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雲仙の四季

季節ごとに鮮やかに表情を変える雲仙。それを演出しているのは植物だ。晴れの日も雨の日も木々の幹、葉、花が舞台装置となって、見るものを飽きさせないドラマを繰り広げている。

  • われん川整備

    華やかな春

    3月、雲仙の裾野で木々が芽吹き始めると、春はたちまち雲仙を覆い尽くしてしまう。5月、主役はツツジ。まるで狭い檻から解き放たれた野生動物のように、ミヤマキリシマが緑の中で自分たちが主役であることをアピールする。

  • 島原深江道路

    さわやかな夏

    朝霧が晴れると、そこにあらわれるのは日ごとに濃さ増す緑を映す池の水面。太陽が上るとともに空も水もますます青くなる。澄みきった空気のひんやりとした感触が標高の高さを改めて教えてくれる。

  • 水無川

    実り豊かな秋

    10月、季節のドラマは、今度は雲仙の頂上近くの紅葉から始まる。南へ渡っていく鳥たちが雲仙の上空で編隊飛行を見せる頃、山全体に広がった紅葉は、収穫の季節のクライマックスを告げているようだ。

  • 大野木場砂防みらい館

    きびしい冬

    ガラスのようになった木々、水晶みたいな森。それは雲仙の冬の装い。夏には池のほとりを漂っていた霧が、この季節には霧氷となって陽の光にキラキラと輝く。まるで春の訪れを待ち焦がれる鳥たちの目のように。

雲仙の植物相
標高950m以上 落葉紅葉樹林帯
標高600m~標高950m 混交樹林
標高600m以下 照葉樹林帯
雲仙の植物群落
山頂部 コハウチワカエデ
─ケクロモジ群落
山頂下部のやせ尾根や
急斜面
モミ
─シキミ群落
溶岩上や硫気孔付近 アカマツ
─ミヤマキリシマ群落
雲仙動物歳時記
    1. ウグイス(九千部岳、田代原)

    2. ヤブサメ(九千部岳、田代原)

    3. ホトトギス(九千部岳、田代原)

    4. ホオジロ(九千部岳、田代原)

    5. オオセンチコガネ(九千部岳、田代原)

    6. ヒバリ(諏訪の池)

    1. オオルリ(普賢岳、九千部岳、田代原)

    2. ホオジロ(地獄周辺)

    3. クマゼミ(諏訪の池)

    4. ウチワヤンマ(諏訪の池)

    5. アオスジアゲハ(諏訪の池)

    6. ダイコクコガネ(九千部岳、田代原)

    1. エゾビタキ(九千部岳、田代原)

    2. コサメビタキ(九千部岳、田代原)

    3. コムクドリ(雲仙岳一帯)

    4. クツワムシ(諏訪の池)

    5. スズムシ(諏訪の池)

    1. カイツブリ(諏訪の池)

    2. カルガモ(諏訪の池)

    3. キセキレイ(地獄周辺)

    4. カラ類(地獄周辺)

    5. コガモ(別所ダム)

    6. マガモ(別所ダム)

自然とのふれあいには
ルールがある

自然に親しみ、自然をとうとび、自然に学び、自然を楽しむために、そしてこのすばらしい自然をいつまでも保つためにルールを守って行動しよう。

  1. 定められた場所以外には入らない。

  2. ゴミは必ず持ち帰ろう。

  3. 植物、動物、鳥、昆虫などは採集したりせず観察するだけにしよう。

  4. 大声をあげたり、ラジオなどを鳴らして歩かないようにしよう。